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英二の1日お兄ちゃん 前編


突然ですが、俺、菊丸英二は

この度、

一日だけお兄ちゃんをすることになりました。



それはある日の夕食のときだった。

「え〜っ、親戚のおばさん倒れちゃったのぉ〜?」

ご飯を口に運びながら俺は頓狂な声を上げた。
(え?いつも頓狂だって?それは言っちゃダメ!)

「そうなの、」

母さんが言った。

「だから、お母さん、明日お見舞いと手伝いに行こうと思って…」
「フーン…」

俺は話を聞きながらご飯をパクリ。

「あの人の所には確か子供が居ただろう、あの子はどうするんだ?」

父さんが言った。

「ああ、ちゃんのことね。」

母さんが顔を曇らせる。

「それがねぇ、あの人が倒れちゃったから面倒見る人が居なくて…
でも他に預ける当てもないらしいの。」
「そうか、あそこは母1人、子1人だからな。」

この間俺はなーんも考えずにご飯に勤しんでいた。
だってお腹減ってるもんね!

「それで、明日一日だけうちでちゃんを預かることにしたの。」
「そうか、仕方がないな。」

そだね、仕方ないよね。

…んん?

「ちょ、ちょっと待ってよー!」

父さんと母さんの話を聞いていた俺は思わず飛び上がった。

「預かるたってさ、誰が面倒みんの?!おじーちゃんとおばーちゃんは
シルバー会の日帰り旅行だし、父さんも兄ちゃんも姉ちゃんもみーんな出掛けんのにー!?」

すると母さんはニッコリ笑ってこう言った。

「だから英二、あなたが面倒見てね☆」
「えーーーーーーーーーーーーーーー?!」

なっ何てこと言うのさ、母さん!!

「困るよー、俺だって明日部活あんのにー!!」
「大丈夫よ、ちゃんは大人しいから手が掛からないし、
お弁当も用意するから学校につれていってくれたらいいのよ。」

――学校に…連れてく…?
んなことしたらスミレちゃんに怒られるよ〜。

俺の頭に「こりゃーっ、菊丸!!」と怒鳴る顧問の姿が浮かび上がる。(ぞぞぉ〜っ)

「じゃ、英二、頼んだわね。」
「え゛?!」

いきなし決定ですか?!?!?!

とゆーわけで俺はほとんど会った覚えのない従妹の面倒を押し付けられちゃったんだ…。



そんで次の日は日曜日。

「英二ー、ちゃんが来たわよー!」

呼ばれた俺が玄関に行くと、そこには果たして母さんに手を繋がれた従妹の姿があった。

………かっ、可愛い!!!
あんまし会ったことないから覚えてなかったけど、ちゃんってこんなんだったんだ。

ミニマムサイズの体、クリクリの大きな目、ふわふわの髪は二つに分けて
頭の上の方で真っ赤なリボンで結んである。

柔らかそうで、まるでぬいぐるみかなんかみたい♪

あああああ、ギュッてしたいなー。
でもいきなしほとんど知らない従兄にんなことされたら多分びっくりするよね。
ここは我慢、我慢。

「よろしくねー、ちゃん♪」

俺はしゃがんで従妹の目を見てニッコリした。
従妹は…コクンと黙って肯いた。

…………ありゃりゃ、もしかして緊張してる???

「じゃあちゃん、今日はお兄ちゃんと一緒に居てね。」

コクン。

母さんの言葉にもちゃんはただ首を振っただけだった。

もしかしてちゃんって極度の人見知りなのかにゃー?
こりゃタイヘン。(←誰かさんの物真似)


母さんも行っちゃって家には俺とちゃんだけになった。

俺は今日も部活だけど今の時間じゃまだ行くには早い。
だからさっきからちゃんとコミュニケイションを図ろうとしてるんだけど…

ちゃん、にゃんか飲む?」

フルフル。

「じゃあにゃんか食べる?」

フルフル。

「…それじゃお兄ちゃんとTVでも見よっか。」

コクン。

………会話が成立しにゃい。(グスン)

さっきからずっとこんな調子で俺が何を話しかけてもちゃんは
首を縦に振るか横に振るかのどっちかしかしない。
表情1つ変えず、自分からは絶対話そうとしない。

まさか俺って嫌われてんのかなー。い、いや、そんなはずは!!!

俺はふと自分俺の膝の上に乗っかって(てゆーか俺が乗せた)
じーっとTVを見るちゃんの横顔を見た。

その時ブラウン管には粘土で出来たいもむしさんが映っていたんだけど、
俺はちゃんの目がどっか上の空なのに気づいた。

「大丈夫だよ、ちゃん。」

俺は膝の上の小さな頭をポフポフして言った。

「お母さん、きっとすぐよくなるって。」

ちゃんは顔にはほとんど出さなかったけど安心したようにコクン、とした。

そんなこんなしてTVを見ていたら、家を出る時間になった。



ちゃーん、行くよー。」

コクン。

支度を整えた俺はちゃんを連れて家を出た。

俺はテニスバッグを肩にかけて、ちゃんはリュックサック背負って
片手にはうちの母さんが作ったお弁当を入れた小さなバスケットを持って。

にゃはははー、かわいいなーちゃん☆(←別に変な人じゃにゃいよ!!!)

スタスタスタスタ トテトテトテトテ

しかし歩く道すがらも会話はまるっきしなくて。
日曜のせいか、周りも静かでにゃんか足音だけが虚しい。

ダメだ、こーゆー状態すっごく苦手。
こーなったら何が何でも会話を成立させねば!!

俺はふと思いついたことを口にしてみた。

「そーいえばさー、」

あ、ちゃん、こっち向いた♪

ちゃんって今いくつだっけ?」

ぴっ。

「あ、6つにゃのね?」

ちっちゃな右手と左手の指で示された数を理解するのにいくら俺でも時間はかからない。

「ってことは小学生かー、もうおねーさんだねー。」

俺が言うとちゃんの様子が変わった。
顔を赤くして手を頭にやっている。

照れてるよ! ちゃんが照れてるよ!!
かわいいかわいいかわいい〜っvvvvvvvvv

俺が1人内心で盛り上がってると(怪しいって言わにゃいで)ちゃんの視線の位置が変わった。

「? どしたの?」

尋ねてちゃんの視線を辿ってみたり。
あ、にゃるほどね。

どっかのお家の塀の上を狸みたいな毛色の毛足の長い、
しかもはたきみたいな尻尾の猫がトコトコ歩いている。

「猫好き?」

コクン。

ムフフフ〜、そーにゃんだーv

「それじゃあ、お兄ちゃんは?」
「!?」

俺の質問にちゃんは驚いて、1人頭を抱えてパニックモードになってしまった。

困ってるとこもかわいいにゃー。

一応の会話成立に成功して、俺はホクホクした。


そんにゃこんにゃで俺とちゃんは学校に到着した。

To be continued...

作者の後書き(戯言とも言う)

菊丸ドリーム始動です。

一話完結の予定が長くなったので二つに分けてみました。
後編もすぐにアップ予定なのでお楽しみに☆

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